悪性リンパ腫に対する “ミサイル療法”最前線 ~分子標的薬を利用した治療~
2021年05月30日
分子標的薬の登場はがん診療において革命を起こしています。新たな分子標的薬が次々に開発されており、さらなる進歩が期待されています。
従来型の抗がん剤は細胞分裂の盛んな細胞に作用するため、がん細胞を殺すと同時に正常な細胞にもダメージを与えます。一方、分子標的薬はがん細胞を標的にピンポイントで攻撃するので効率がよく、目標を狙い撃ちするミサイルに例えることができるので、この分子標的薬を利用した治療は“ミサイル療法”と称されています。
悪性リンパ腫はリンパ球ががん化したもの(血液がんのひとつ)で、多くの場合はリンパ節が腫れますが、消化管、甲状腺、肺、肝臓、皮膚、脳など全身のあらゆる臓器に発生します。血液がんの中で最も頻度が高く、70歳代にピークがあり、患者数は年々増加する傾向にあります。この悪性リンパ腫は高倉健さんや松方弘樹さんの命を奪い、最近ではアナウンサーの笠井信輔さん、ハンマー投げ金メダリストの室伏広治さんが患った病気として報道されました。当科における最近5年間の新規入院患者数は、悪性リンパ腫が血液がんの約60%を占めていました。
悪性リンパ腫と診断された場合には、ホジキンリンパ腫か非ホジキンリンパ腫か、非ホジキンリンパ腫であればB細胞リンパ腫かT細胞リンパ腫か、B細胞リンパ腫であればびまん性大細胞型か濾胞性か、T細胞リンパ腫であれば成人T細胞リンパ腫か否か、といった具合に、細かい病型を確認することが必要不可欠です。それは、経過観察が可能な低悪性度のものから、早急に治療開始が必要な高悪性度のものまで様々であり、それぞれの病型で治療方針が異なり、治療成績が異なるからです。そして、リンパ腫の病型によって使用するミサイル(分子標的薬)も異なってきます(表)。
当科の悪性リンパ腫の病型別頻度では、ホジキンリンパ腫が約5%、B細胞リンパ腫が約70%、T細胞リンパ腫が約25%であり、全国の報告とほぼ同様の比率でした(図)。
従来から行われている悪性リンパ腫に対する治療は、相乗効果を狙うと同時に副作用の増強を回避することを目的とし、従来型の抗がん剤をうまく組み合わせて使用しています。これまで種々の組み合わせが検討されてきましたが、限界が感じられていました。
そのような中で登場したのが分子標的薬です。分子標的薬を単独で使用することもありますが、多くの場合は抗がん剤と組み合わせて使用します。当院では、原則として、悪性リンパ腫に対する治療は初回治療を短期入院で実施して、以後は外来化学療法室(写真)を利用して実施していきます。
最近CAR-T細胞療法という新たな治療法が登場しており、一部の白血病やリンパ腫が治療対象となっています。現時点で九州においては九州大学病院のみが提供可能施設です。分子標的薬の登場に加えて、がん免疫遺伝子治療などの新たな治療法が登場し、悪性リンパ腫の治療成績はさらに向上していくことが期待されます。
(血液内科 部長 大塚 英一)