遺伝性乳がん卵巣がん（HBOC）はBRCA遺伝子の病的変異のため乳がんや卵巣がん、前立腺がん、膵がんなどを発症しやすい症候群で、50%の確率で親から子に遺伝します（常染色体優性遺伝）。BRCA遺伝子はDNAの傷を修復して、細胞ががん化することを抑える働きがあります。BRCA1またはBRCA2に病的変異がある場合の年齢にともなう乳がん、卵巣がんの発症率は図のようになります。日本人の約500人に1人、乳がんの5～10%、卵巣がんの10～15%がHBOCと言われています。

　近年、HBOCに対するリスク低減乳房切除術（RRM）とリスク低減卵管卵巣摘出術（RRSO）が保険診療または自費診療で行われるようになりました。リスク低減手術とはがんの発症前に臓器を摘出してしまう予防的手術のことです。RRMは乳がんの発症を93%低減しますが、RRSOは卵巣がんの発症を79%低減するだけでなく、乳がんの発症も51%低減します。これは乳がんにホルモン感受性があるからです。さらにRRSOは卵巣がん・乳がんなどによる全死亡リスクを60%低減するため、HBOCの患者さんにとって大きな利益が得られる手術と言えます。RRSOは腹腔鏡下に行うことができ、身体への負担も少ない手術ですが、閉経前に行う場合は更年期障害による体調の変化に留意する必要があります。