膵臓がんについて

1.膵臓がん(浸潤性膵管がん)

 膵臓がんは悪性腫瘍の中でも治療成績(予後)不良なもののひとつであり、最新のがん統計(国立がん研究センター、2018年)では全てのがんのうち死亡数は第4位(男性4位、女性3位)とされています。膵臓がんが予後不良である原因は、①生物学的悪性度が高い(進行速度が速い)こと ②症状が出にくく早期発見が困難なこと ③周囲臓器・血管に浸潤しやすく根治切除が困難なことなどが挙げられます。検診での腹部エコーにおいても体格や部位により膵臓自体がみにくい場合があり、他の病気の精密検査での腹部 CT 検査で偶然に膵腫瘍がみつかることがしばしばあります。糖尿病の発症・増悪も膵臓がんのリスクの一つとされています。
 新規に膵臓がんと診断された場合、根治切除率はおよそ20%にとどまります。残る80%近くの患者さんは転移や局所進行により根治切除はできない(手術対象外)と判断され化学療法が主な治療となります。

2.その他の膵腫瘍

(1)膵のう胞性腫瘍

 画像診断の進歩により偶然に発見されるのう胞性腫瘍の頻度が増えています。低悪性度とされ、浸潤性膵管がんと比較して予後は良好ですが、それぞれ悪性化のポテンシャルを有するため各腫瘍の特性によっては手術適応となります。消化器外科領域で治療対象となる可能性のある主なのう胞性腫瘍を以下に挙げます。

(a)膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
 膵管上皮から発生する腫瘍で、豊富な粘液を産生する特徴をもつ腫瘍です。膵臓内の大小全ての膵管から発生し得ます。腫瘍の発生部位によって、①主膵管型②分枝膵管型 ③混合型(①②をともに含む)に分類されます。画像上みられる複数ののう胞について「ブドウの房状」と表現されます。のう胞内にしこり(腫瘤影)が認められたり、主膵管の拡張(10mm以上)がみられる場合は手術を考慮します。

(b)膵粘液性のう胞腫瘍(MCN)
 主に膵尾側(体部・尾部)に認められ、中年の女性に多いという特徴がみられます。体の発生段階で膵組織に迷入した細胞(卵巣様間質)が原因とされています。画像上、球形・明瞭な隔壁から「夏みかん状」と表現されます。 IPMN と異なり膵管とは交通がみられません。のう胞内にしこりがみられたり、大きさが6cmを超えるような場合は悪性が疑われます。 MCNと診断がついた場合は手術の適応です。

(c)充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)
 膵腫瘍のうち頻度は1〜2%程度とされ、充実成分とのう胞成分が混在してみられ、また石灰化を伴うことも特徴です。膵尾側(体部・尾部)にみられ30〜40代の女性に多くみられます。悪性頻度は10%程度と高くありませんが、画像上確定診断がついた場合は手術が必要です。

(d)膵漿液性のう胞腫瘍(SCN)
 膵尾側(体部・尾部)、中年女性に多くみられます。典型的な場合「ハチの巣状・スポンジ状」の特徴的な画像所見を示しますが、しばしば他ののう胞性疾患と区別しにくいことがあります。悪性化の頻度は極めて低く(1%)、基本的には経過観察されますが、他疾患と鑑別困難な場合や、増大による有症状の場合は手術適応とされます。

(2)膵神経内分泌腫瘍(NEN, NET)

 ホルモンを産生する、または産生する能力のある神経内分泌細胞から発生する腫瘍です。膵腫瘍のうち2%程度とされ、年間初診数は人口10万人あたり2.7人程度と比較的まれな疾患です。ホルモン産生による臨床症状の有無により機能性腫瘍(functioning tumor)、および非機能性腫瘍(non-functioning tumor)に分けられます。
 神経内分泌腫瘍は以前「カルチノイド(がんもどき)」とも呼ばれ良性とされていましたが現在は、その発育は緩徐ながら転移能を有することから現在は悪性の範疇とされ、診断がつけば手術適応とされています。
 産生するホルモンにより種々の臨床症状を呈し、インスリノーマ(インスリン)、ガストリノーマ(ガストリン)、グルカゴノーマ(グルカゴン)、ソマトスタチノーマ(ソマトスタチン)などと呼ばれます。

3.当科での治療成績

(1) 手術症例数

 悪性腫瘍に対しては、腫瘍が膵頭部にみられる場合は膵頭十二指腸切除術を、体部・尾部にみられる場合は尾側膵切除術を周囲リンパ節郭清とともに行います。門脈など周囲血管浸潤を伴う場合は血管合併切除を同時に行う場合があります。
 悪性腫瘍の中でも早期病変や、のう胞性・内分泌腫瘍などの良性・低悪性度病変に対しては腹腔鏡下膵切除術を積極的に行っています(2004年6月から2022年3月までに計35例施行)。

*膵手術例の年次推移(膵・胆道・十二指腸悪性腫瘍を含む)

*腹腔鏡下尾側膵切除術

(2) 膵臓がんの切除成績
*膵悪性腫瘍の5年全生存率(2011-2020, 神経内分泌腫瘍を除く 100例)
 5年生生存率 32%

 悪性疾患については術後の回復を待って補助化学療法(再発予防目的の抗がん剤投与)を行います。補助化学療法については腫瘍の進行度によって術前化学療法として行う場合もあります。
 膵臓手術は一般的に難易度が高く、術後合併症の多い外科治療です。当院は大分県内に4施設のみの「日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設」に認定されており、専門医・指導医による適切な診断、安全な治療ができる体制を整えています。

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