専門性とチーム医療

特定行為研修修了者

特定行為とは

厚生労働省の指定する研修機関での研修を修了した看護師(特定行為研修修了者という)が、今までは医師しか行うことの出来なかった医療行為の一部を実施可能となりました。例えば、手術の時に入るドレーン(管)を医師の包括的指示(予め医師と作成した手順書)下で特定行為研修修了者が抜けるようになります。
それにより、医師の外来診療や手術が終わるのを待って夕方に行わざるを得なかった処置を、患者さんの状態や生活リズムに合わせて実施することが可能となります。

1.特定行為研修と研修修了後の体制

当院では、特定行為研修を受講する看護師は自部署で働きながら、10月から翌年の9月まで1年かけて、患者さんの状態を適切に把握・分析し、正確で安全な医療行為を実施するために、専門的な知識と技術を身につけます。最終試験に合格すると共に、臨床実習で5症例以上を経験して合格基準以上の評価を得たうえで、特定行為研修修了証が授与されます。

当院では更に、特定行為研修修了後に、自部署で医師から各特定行為のトレーニングを受けます。合格基準以上の評価を得て、初めて特定行為を実践できる体制にしています。

特定行為研修修了者は、まだ3名ですので、患者さんへのタイムリーな行為の提供には限りがあります。今後、毎年育成していきますので、ご理解とご協力をお願いいたします。なお、令和4年の9月には新たに3名の特定行為研修修了者が誕生する予定です。

2.特定行為の内容

当院で実施できる医療行為の内容は以下の15行為です(表1参照)。
外科の術後病棟管理で行われる医療行為ですが、内科でも実施可能な医療行為です。現在、内科病棟の看護師も特定行為研修を受けています。特定行為研修修了者は所属部署の特徴に応じて特定行為を行っているため、それぞれ、実際に実施する特定行為には違いがあります。
特定行為区分 特定行為
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 侵襲的陽圧換気の設定の変更
非侵襲的陽圧換気の設定の変更
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 気管カニューレの交換
胸腔ドレーン管理関連 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更
胸腔ドレーンの抜去
腹腔ドレーン管理関連 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿刺針の抜針を含む)
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 中心静脈カテーテルの抜去
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル留置管理)関連 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
創部ドレーン管理関連 10 創部ドレーンの抜去
動脈血液ガス分析関連 11 直接動脈穿刺法による採血
10 栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 12 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
11 術後疼痛管理関連 13 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整
12 循環動態に係る薬剤投与関連 14 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整
15 持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整

3.特定行為研修修了者の活動

現在、3部署で3名の特定行為研修修了者が活動しています。

【9階東病棟:乳腺外科、婦人科】

三代 靖子
『2021年「外科術後病棟管理領域」特定行為研修修了』

当病棟には婦人科・乳腺外科疾患による手術・化学療法・癌性疼痛や腹水、胸水貯留による症状コントロールなど多岐にわたる目的で入院される患者さんがいます。医師は多忙であり、手術後の患者さんから「手術が終わってから先生が来て、お腹の管を抜くと言っていました。何時頃になりますか」腹水穿刺中の患者さんから「動けないのがきついです。先生はまだですか」など、医師を待ってから行う処置が多くありました。そのたびに、自分が患者の状態・状況を判断でき、医師と協働してタイムリーにケア・処置を行い、待たせない看護が提供できないかと考えていました。そこで、特定行為研修を受講しました。

今では、乳腺外科や婦人科の患者さんに対し、医師と協議し、創部ドレーンや腹腔ドレーンを抜けるようになりました。患者さんからは、「管がとれて早く歩けた。シャワーを浴びられた」と笑顔で言ってもらえます。また、硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整を行って疼痛コントロールにも努めています。他には、研修で学んだ臨床推論を活かして急変予測にも活かしています。部署では、症状から考える臨床推論について学習会を開催し、スタッフと共に考える場を設けています。少しずつですが、活動の場を広げていきたいです。

今後も安心で安全な医療の提供を目指します。

【7階西病棟:消化器外科】

吉野 明美
『2021年「外科術後病棟管理領域」特定行為研修修了』

外科病棟では、手術や外来などで、医師が不在となることが多く、患者さんが「このまま、じっと待っていなければならない」、「医師がいないため処置が明日しかできない」など、患者さんの負担となる状況が多々ありました。タイムリーなケアができれば、患者さんへの負担が減るのではと日々考えていました。また、看護の質を上げるきっかけも作りたいと思い、まず、自分の観察力、患者の状況把握能力を向上させるために、特定行為研修を受講しました。

現在、消化器外科の術後の患者さんに対し、医師や病棟の看護師と連携を図り、中心静脈カテーテルを抜去したり、腹腔ドレーンを抜去したりと術後の早期回復に向けてタイムリーなケアを提供しています。スタッフとも知識を共有し、患者さんの異常の早期発見に努め、皆で「生活」と「治療」の両面から支えていきます。

【集中治療室(ICU)】

小川 央(クリティカルケア特定認定看護師)
『2021年「外科術後病棟管理領域」特定行為研修修了』

2008年に集中ケア認定看護師を取得し、その後、ICUや救急救命センター、外科病棟などのクリティカルケア領域で活動するなか、もっと患者さんの病態や治療について勉強し、質の高いケアを提供できるようになりたいと考えました。そこで、更に特定行為研修を受講しました。研修では「患者さんに必要なケア(医療行為を含む)について、今、何故、そう判断したのか」と、根拠を持って答えられるように病態や治療について学びました。研修により、治療を行う際の医師の思考過程が理解できるようになりました。

現在、ICUで手術後や重症の患者さんへのケアに携わっています。何故、今のタイミングで患者さんにこのケア(医療行為を含む)が必要なのかと医師に説明し、確認しながら、主に人工呼吸療法関連の特定行為を行っています。また、他の修了生と共に、新たな特定行為研修生に対して、各科目の演習や実習での指導者となっています。その際には、自分たちが得た知識や技術、特定行為を実践する際の判断の根拠等について具体的に伝えています。 

これからの新たなチーム医療の要として、皆で協力していきます。

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